脳の病気

【脳卒中】脳内出血

出血性脳卒中(くも膜下出血・脳内出血)と虚血性脳卒中(脳梗塞)は、ともに脳血管の異常によって起こる病気で、これらを合わせたものが一般に脳卒中(脳血管疾患・脳血管障害)といわれています。脳梗塞は昔は脳軟化といわれ、脳出血は脳溢血といわれていました。

どんな病気
死因の推移
日本の死因の年次推移を見てみましょう。
悪性新生物(癌)は昭和50年半ばで死因の第一位となり、右肩上がりで増え続けています。
一方、昭和30年代・40年代国民病といわれ、死因の第一位であった脳血管疾患は昭和60年に第三位となり、平成23年には肺炎に次いで第四位になりましたが、重大な病気の一つには違いありません。
脳血管疾患が減った訳ではありません。脳血管疾患の治療が近年飛躍的に進歩し、死亡率が下がってきています。現在、高齢化社会で肺炎が死因の第三位になっています。

出血性脳卒中は脳内出血とくも膜下出血があります。くも膜下出血は別の項に書きましたから、そちらを見て下さい。

50歳台から増える高血圧性脳内出血
ここでは脳内出血について書きます。脳内出血は一般的には高血圧性脳内出血を指しますが、若い人の脳内出血は脳動静脈奇形からの出血が多く、高血圧性脳内出血とは全く違った病気です。
高血圧性脳内出血は高血圧と動脈硬化が起こる年齢、つまり50歳台から増えてきます。動脈硬化により脳の細い血管に変化が起こりそこから出血するものと考えられています。しかし日本では食生活の改善や降圧剤による高血圧の管理が行き届くようになり、重症の高血圧性脳内出血は劇的に減少しました。高血圧性脳内出血の起こる場所はほぼ決まっています。

大脳の中の方にある被殻(ひかく)に出血するものが最も多く全体の50%を占めます。次に多いのが視床(ししょう)出血で20%、小脳出血が10%、脳幹部の橋(きょう)という場所の出血が10%です。その他に大脳半球の表面に近い部分に出血する脳葉出血(皮質下出血)が10%ありますが、これは脳動静脈奇形や脳動脈瘤の破裂、その他の血管奇形を伴うことが多く、また老人のアミロイド血管障害という病気のときもあり、高血圧性とは一概にいえません。出血部位の頻度は統計により違いますが、被殻出血がもっとも多いことには変りなく、最近では高齢者の視床出血が増えているようです。

脳内出血は1日の内で血圧がもっとも高くなる朝10-12時頃に突然発症することが多く、発症から1-6時間ぐらいのうちに出血は止まりますが、30%は重症で、発症から一時間程度で意識障害が進行し、死に至るものもあります。

若い人に多い脳動静脈奇形の出血
脳動静脈奇形は一種の血管の奇形です。普通、動脈から毛細血管となり、そこで酸素や栄養を組織に与え変わりに不要な老廃物を血液に取り込んで静脈となり、血液は心臓へ戻ります。脳動静脈奇形は動脈が異常な血管の塊を通って直接静脈と繋がっています。脳動静脈奇形は普通無症状ですが、けいれんを起こして分かる例があります。この脳動静脈奇形が出血すると脳内出血やくも膜下出血を起こします。脳動静脈奇形の出血は若い人に多く、20-40歳台で発症しますから、若い人の脳出血とくに脳葉出血は脳動静脈奇形破裂を疑います。

どんな症状
脳内出血は一般に頭痛と嘔吐で発症します。その他の症状は出血が起こった部位によって違います。ここでは急性期の症状を書きます。

被殻出血の場合
被殻出血では出血と反対側の手足が麻痺し、感覚も障害されます。被殻のみの小さな出血では本来麻痺は起こりません。殆どの場合被殻から少し内側にある内包へ出血し、その部分の障害で運動麻痺と感覚障害がでます。出血が大きいと、顔と両眼が出血した側(手足の麻痺が左なら右側)へ向いて自分では治せない状態になり、意識障害が進んできます。右利きの人は言葉を理解してしゃべる機能が左の脳にありますから、左の脳内出血が起こると、利き手の右手の麻痺だけでなく言語障害(失語)が起こり、言葉がしゃべれなくなったり言葉が理解できなくなることがあります。

視床出血の場合
視床出血では内包を圧迫するため運動麻痺も起こりますが、感覚障害が強く出ます。慢性期になって出血と反対側の手や足が非常に痛くなる場合があります。これは視床痛といい、鎮痛薬が効きにくいです。この場合定位脳手術といって特殊な手術を行う場合があります。それ以外に視床出血では左右の眼の位置がおかしくなります、寄り目になったり、両眼が下に向いて動かなくなったりします。高齢者に多い病気で寝たきりの原因となり、認知症にもなり易い病気です。

小脳出血の場合
小脳出血は突発する頭痛・嘔吐・めまいが起こり、立ち上がるとふらふらして歩けません。小脳出血のめまいは非常に強いもので、ずっと続きます。最初のうちは意識障害がありませんが徐々に意識障害が起こり、呼吸状態が悪くなってきます。小脳出血の場合は早いうちに手術すると改善しますから、呼吸障害がひどくならないうちに手術することが必要です。

橋出血の場合
橋出血では重症例が多く出血の最初から意識障害・呼吸障害・四肢麻痺(両手足が動かなくなる)が起こります。眼も固定し、上下にずれたりして見るからに異常です。また瞳孔(黒目の真中)が非常に小さくなります。瞳孔の大きさは脳の病気の時には非常に重要で、意識障害で、瞳孔が5mm以上に開き、光を入れても縮まない場合は危篤状態です。橋出血は以前はすべて重症と考えられていましたが、症状が軽いものでCTやMRIでみると小さな橋出血が見つかる場合が増えてきました。

脳葉出血の場合
脳葉出血は若い人では脳動静脈奇形の出血、高齢者ではアミロイド血管症を考えます。症状は出血した場所により、片麻痺や視野障害・言語障害などがでますが、頭痛は殆どの症例で起こります。

どんな診断・検査
脳出血は突然起こり、頭痛もひどく、症状も強いですから殆どの場合救急車で病院に運ばれてきます。診断は症状から比較的容易ですが、最終的にはCTが有用です。MRIも有用な検査でT2スターという撮像で診断が容易になります。脳内出血の重症度は意識レベル、CT上の血腫の広がり、血腫の量で判定します。意識レベルは重症例ではどんなに刺激をしても眼を開けない状態となり、昏睡状態となります。

家や職場での対応
当然ですが重症になればなるほど予後も悪くなります。家や職場で脳内出血で人が倒れたらともかく呼吸の確保が大切です。ネクタイや首の周りをゆるくして、お腹のベルトも緩めます。脳内出血では嘔吐することが多いので、嘔吐物が喉に詰まって窒息する場合や、肺の中に入って誤嚥性肺炎をおこします。これを予防するためには身体を横に向けます。そして口の中に詰まっているものを取り除きます。以前は脳卒中の人は動かしてはいけないといわれていましたが、現在はともかくすぐに病院へ運ぶことを考えて下さい。

どんな治療法
症状が軽い場合
脳内出血は発症1-6時間で出血が止まります。ですから6時間以上経っても意識障害がなく症状が軽い例では手術はせずにそのまま様子をみます。血圧が高い人が多いですから血圧を下げる薬を使い、脳の腫れ(脳浮腫)を軽くする薬(グリセオール)を点滴します。発症してすぐに病院へ行った場合、症状が軽くてもまだ出血が止まっていない場合がありますから、2-3時間後にもう一度CTを行って大きくなっていないか確認します。

急性期の手術の適応
被殻出血では血腫の量が30ml以上で意識が半昏睡状態(刺激で眼は開けないが身体を動かす)のものが急性期の手術の適応となります。手術は頭蓋骨を開ける開頭手術と、小さな穴から血腫を吸引する定位脳手術的血腫吸引術とがありますが、大きな血腫で救命の意味も考慮して行う場合は開頭術が、また6時間以上経っていたり中程度の血腫の場合は吸引術が結果が良いと考えられます。しかし手術適応と手術法は患者さんの年齢や合併症、家族や本人の意思などを考慮して、その場の状況で判断するということになります。しかし被殻出血の場合は手術しても麻痺は残ります。意識障害の改善や早期回復を目的とした手術ですので誤解しないようにして下さい。

出血の場所にあわせて治療
視床出血に対しては開頭手術をしません。脳室の中に出血が多かったり、水頭症を来した場合に髄液を外へ出す手術をします(脳室ドレナージ)。血腫が大きければ血腫吸引術を行うことがあります。

小脳出血は進行が急で、水頭症を起こすこともあり、手術で症状をかなり改善できますからある程度の大きさの出血であればすぐに手術をします。

脳葉出血は前述のように若い人では脳動静脈奇形の可能性もありますから、血管造影や3D-CTAを行い、出血の原因となる病気があるかどうか確認します。出血が大きい場合はすぐに開頭手術を行いますが、この場合は片麻痺などの症状を改善することができます。

脳動静脈奇形が見つかった場合は小さな物では急性期に血腫を取る時に全摘できますが、大きな物や複雑なものは残ります。落ち着いてから残った脳動静脈奇形に対する治療を行います。脳動静脈奇形に対する治療は脳動静脈奇形の項に書いてあります。

本人・家族の意思
脳内出血の治療で悩むのは高齢者や非常に重症例・危篤状態の例です。危篤状態の例は手術でしか救命できません。しかし重症であればあるほど、術後の状態も悪く、必ずしも救命できるわけではありませんし、遷延性意識障害といって眼は開けているけど外界とのコミュニケーションが全く取れない状態や、寝たきりの状態になることが殆どです。

御家族は「できるだけのことをして下さい」「先生におまかせします」という表現を良く使われますが、手術後に遷延性意識障害となった場合の長期の闘病生活は御家族にとっても決して楽なものではありません。
また、現在の医療制度では一つの病院に3ヶ月以上長期にわたって入院することは難しい状況ですので、転院を繰り返しているのが現状です。このような例では病前の御本人の意思を確認しておくことも必要でしょうし、「できるだけのこと」が決して患者さんや家族にとって最善の方法ではないことを理解して判断すべきでしょう。外科医は家族が手術を希望した場合、手術をしないという決断はし難いものです。

リハビリテーション
脳内出血では片麻痺等の脳内出血特有の症状は保存的治療でも外科的治療でも残ります。ですからリハビリテーションが最も大切です。リハビリテーションは発症早期から必要です。特に、長く寝ていると手や足が固くなってしまう拘縮が起こりますので、足関節・膝関節・股関節や肩・肘・手指の関節を動かします。また手にはタオルを巻いたものを握らせます。ベッドで寝ている時の手や足の位置も大切です。

このようなリハビリは家庭に帰っても必要になりますから入院中に家族の方も覚えておくと良いです。被殻出血の患者さんで意識障害のでなかった方はリハビリテーションをすることで手の細かい動作はなかなかできませんが、70%ぐらいの方が自力もしくは杖歩行が可能になります。家では歩き、外へ出る時は車椅子というレベルの人もいます。時間はかかりますが、希望を持って焦らずリハビリテーションに取り組んで下さい。脳内出血の人は一時うつ状態になって落ち込みますが、段々自分の現実を受け止めるようになります。家族の方も焦らずに見守っていてあげることが大切です。
(文責:髙橋 伸明)
出血性脳卒中(くも膜下出血・脳内出血)と虚血性脳卒中(脳梗塞)は、ともに脳血管の異常によって起こる病気で、これらを合わせたものが一般に脳卒中(脳血管疾患・脳血管障害)といわれています。脳梗塞は昔は脳軟化といわれ、脳出血は脳溢血といわれていました。

どんな病気
死因の推移
日本の死因の年次推移を見てみましょう。
悪性新生物(癌)は昭和50年半ばで死因の第一位となり、右肩上がりで増え続けています。
一方、昭和30年代・40年代国民病といわれ、死因の第一位であった脳血管疾患は昭和60年に第三位となり、平成23年には肺炎に次いで第四位になりましたが、重大な病気の一つには違いありません。
脳血管疾患が減った訳ではありません。脳血管疾患の治療が近年飛躍的に進歩し、死亡率が下がってきています。現在、高齢化社会で肺炎が死因の第三位になっています。

出血性脳卒中は脳内出血とくも膜下出血があります。くも膜下出血は別の項に書きましたから、そちらを見て下さい。

50歳台から増える高血圧性脳内出血
ここでは脳内出血について書きます。脳内出血は一般的には高血圧性脳内出血を指しますが、若い人の脳内出血は脳動静脈奇形からの出血が多く、高血圧性脳内出血とは全く違った病気です。
高血圧性脳内出血は高血圧と動脈硬化が起こる年齢、つまり50歳台から増えてきます。動脈硬化により脳の細い血管に変化が起こりそこから出血するものと考えられています。しかし日本では食生活の改善や降圧剤による高血圧の管理が行き届くようになり、重症の高血圧性脳内出血は劇的に減少しました。高血圧性脳内出血の起こる場所はほぼ決まっています。

大脳の中の方にある被殻(ひかく)に出血するものが最も多く全体の50%を占めます。次に多いのが視床(ししょう)出血で20%、小脳出血が10%、脳幹部の橋(きょう)という場所の出血が10%です。その他に大脳半球の表面に近い部分に出血する脳葉出血(皮質下出血)が10%ありますが、これは脳動静脈奇形や脳動脈瘤の破裂、その他の血管奇形を伴うことが多く、また老人のアミロイド血管障害という病気のときもあり、高血圧性とは一概にいえません。出血部位の頻度は統計により違いますが、被殻出血がもっとも多いことには変りなく、最近では高齢者の視床出血が増えているようです。

脳内出血は1日の内で血圧がもっとも高くなる朝10-12時頃に突然発症することが多く、発症から1-6時間ぐらいのうちに出血は止まりますが、30%は重症で、発症から一時間程度で意識障害が進行し、死に至るものもあります。

若い人に多い脳動静脈奇形の出血
脳動静脈奇形は一種の血管の奇形です。普通、動脈から毛細血管となり、そこで酸素や栄養を組織に与え変わりに不要な老廃物を血液に取り込んで静脈となり、血液は心臓へ戻ります。脳動静脈奇形は動脈が異常な血管の塊を通って直接静脈と繋がっています。脳動静脈奇形は普通無症状ですが、けいれんを起こして分かる例があります。この脳動静脈奇形が出血すると脳内出血やくも膜下出血を起こします。脳動静脈奇形の出血は若い人に多く、20-40歳台で発症しますから、若い人の脳出血とくに脳葉出血は脳動静脈奇形破裂を疑います。

どんな症状
脳内出血は一般に頭痛と嘔吐で発症します。その他の症状は出血が起こった部位によって違います。ここでは急性期の症状を書きます。

被殻出血の場合
被殻出血では出血と反対側の手足が麻痺し、感覚も障害されます。被殻のみの小さな出血では本来麻痺は起こりません。殆どの場合被殻から少し内側にある内包へ出血し、その部分の障害で運動麻痺と感覚障害がでます。出血が大きいと、顔と両眼が出血した側(手足の麻痺が左なら右側)へ向いて自分では治せない状態になり、意識障害が進んできます。右利きの人は言葉を理解してしゃべる機能が左の脳にありますから、左の脳内出血が起こると、利き手の右手の麻痺だけでなく言語障害(失語)が起こり、言葉がしゃべれなくなったり言葉が理解できなくなることがあります。

視床出血の場合
視床出血では内包を圧迫するため運動麻痺も起こりますが、感覚障害が強く出ます。慢性期になって出血と反対側の手や足が非常に痛くなる場合があります。これは視床痛といい、鎮痛薬が効きにくいです。この場合定位脳手術といって特殊な手術を行う場合があります。それ以外に視床出血では左右の眼の位置がおかしくなります、寄り目になったり、両眼が下に向いて動かなくなったりします。高齢者に多い病気で寝たきりの原因となり、認知症にもなり易い病気です。

小脳出血の場合
小脳出血は突発する頭痛・嘔吐・めまいが起こり、立ち上がるとふらふらして歩けません。小脳出血のめまいは非常に強いもので、ずっと続きます。最初のうちは意識障害がありませんが徐々に意識障害が起こり、呼吸状態が悪くなってきます。小脳出血の場合は早いうちに手術すると改善しますから、呼吸障害がひどくならないうちに手術することが必要です。

橋出血の場合
橋出血では重症例が多く出血の最初から意識障害・呼吸障害・四肢麻痺(両手足が動かなくなる)が起こります。眼も固定し、上下にずれたりして見るからに異常です。また瞳孔(黒目の真中)が非常に小さくなります。瞳孔の大きさは脳の病気の時には非常に重要で、意識障害で、瞳孔が5mm以上に開き、光を入れても縮まない場合は危篤状態です。橋出血は以前はすべて重症と考えられていましたが、症状が軽いものでCTやMRIでみると小さな橋出血が見つかる場合が増えてきました。

脳葉出血の場合
脳葉出血は若い人では脳動静脈奇形の出血、高齢者ではアミロイド血管症を考えます。症状は出血した場所により、片麻痺や視野障害・言語障害などがでますが、頭痛は殆どの症例で起こります。

どんな診断・検査
脳出血は突然起こり、頭痛もひどく、症状も強いですから殆どの場合救急車で病院に運ばれてきます。診断は症状から比較的容易ですが、最終的にはCTが有用です。MRIも有用な検査でT2スターという撮像で診断が容易になります。脳内出血の重症度は意識レベル、CT上の血腫の広がり、血腫の量で判定します。意識レベルは重症例ではどんなに刺激をしても眼を開けない状態となり、昏睡状態となります。

家や職場での対応
当然ですが重症になればなるほど予後も悪くなります。家や職場で脳内出血で人が倒れたらともかく呼吸の確保が大切です。ネクタイや首の周りをゆるくして、お腹のベルトも緩めます。脳内出血では嘔吐することが多いので、嘔吐物が喉に詰まって窒息する場合や、肺の中に入って誤嚥性肺炎をおこします。これを予防するためには身体を横に向けます。そして口の中に詰まっているものを取り除きます。以前は脳卒中の人は動かしてはいけないといわれていましたが、現在はともかくすぐに病院へ運ぶことを考えて下さい。

どんな治療法
症状が軽い場合
脳内出血は発症1-6時間で出血が止まります。ですから6時間以上経っても意識障害がなく症状が軽い例では手術はせずにそのまま様子をみます。血圧が高い人が多いですから血圧を下げる薬を使い、脳の腫れ(脳浮腫)を軽くする薬(グリセオール)を点滴します。発症してすぐに病院へ行った場合、症状が軽くてもまだ出血が止まっていない場合がありますから、2-3時間後にもう一度CTを行って大きくなっていないか確認します。

急性期の手術の適応
被殻出血では血腫の量が30ml以上で意識が半昏睡状態(刺激で眼は開けないが身体を動かす)のものが急性期の手術の適応となります。手術は頭蓋骨を開ける開頭手術と、小さな穴から血腫を吸引する定位脳手術的血腫吸引術とがありますが、大きな血腫で救命の意味も考慮して行う場合は開頭術が、また6時間以上経っていたり中程度の血腫の場合は吸引術が結果が良いと考えられます。しかし手術適応と手術法は患者さんの年齢や合併症、家族や本人の意思などを考慮して、その場の状況で判断するということになります。しかし被殻出血の場合は手術しても麻痺は残ります。意識障害の改善や早期回復を目的とした手術ですので誤解しないようにして下さい。

出血の場所にあわせて治療
視床出血に対しては開頭手術をしません。脳室の中に出血が多かったり、水頭症を来した場合に髄液を外へ出す手術をします(脳室ドレナージ)。血腫が大きければ血腫吸引術を行うことがあります。

小脳出血は進行が急で、水頭症を起こすこともあり、手術で症状をかなり改善できますからある程度の大きさの出血であればすぐに手術をします。

脳葉出血は前述のように若い人では脳動静脈奇形の可能性もありますから、血管造影や3D-CTAを行い、出血の原因となる病気があるかどうか確認します。出血が大きい場合はすぐに開頭手術を行いますが、この場合は片麻痺などの症状を改善することができます。

脳動静脈奇形が見つかった場合は小さな物では急性期に血腫を取る時に全摘できますが、大きな物や複雑なものは残ります。落ち着いてから残った脳動静脈奇形に対する治療を行います。脳動静脈奇形に対する治療は脳動静脈奇形の項に書いてあります。

本人・家族の意思
脳内出血の治療で悩むのは高齢者や非常に重症例・危篤状態の例です。危篤状態の例は手術でしか救命できません。しかし重症であればあるほど、術後の状態も悪く、必ずしも救命できるわけではありませんし、遷延性意識障害といって眼は開けているけど外界とのコミュニケーションが全く取れない状態や、寝たきりの状態になることが殆どです。

御家族は「できるだけのことをして下さい」「先生におまかせします」という表現を良く使われますが、手術後に遷延性意識障害となった場合の長期の闘病生活は御家族にとっても決して楽なものではありません。
また、現在の医療制度では一つの病院に3ヶ月以上長期にわたって入院することは難しい状況ですので、転院を繰り返しているのが現状です。このような例では病前の御本人の意思を確認しておくことも必要でしょうし、「できるだけのこと」が決して患者さんや家族にとって最善の方法ではないことを理解して判断すべきでしょう。外科医は家族が手術を希望した場合、手術をしないという決断はし難いものです。

リハビリテーション
脳内出血では片麻痺等の脳内出血特有の症状は保存的治療でも外科的治療でも残ります。ですからリハビリテーションが最も大切です。リハビリテーションは発症早期から必要です。特に、長く寝ていると手や足が固くなってしまう拘縮が起こりますので、足関節・膝関節・股関節や肩・肘・手指の関節を動かします。また手にはタオルを巻いたものを握らせます。ベッドで寝ている時の手や足の位置も大切です。

このようなリハビリは家庭に帰っても必要になりますから入院中に家族の方も覚えておくと良いです。被殻出血の患者さんで意識障害のでなかった方はリハビリテーションをすることで手の細かい動作はなかなかできませんが、70%ぐらいの方が自力もしくは杖歩行が可能になります。家では歩き、外へ出る時は車椅子というレベルの人もいます。時間はかかりますが、希望を持って焦らずリハビリテーションに取り組んで下さい。脳内出血の人は一時うつ状態になって落ち込みますが、段々自分の現実を受け止めるようになります。家族の方も焦らずに見守っていてあげることが大切です。
(文責:髙橋 伸明)
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診療科目
脳神経外科、神経内科、
リハビリテーション科
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